視覚障害理由に配置転換は「無効」
岡山県の短期大学の准教授が「視覚障害を理由に授業から外す命令をしたのは不当な差別」だと訴えた裁判で、最高裁は短大側の上告を棄却し、命令を無効とする判決が確定しました。視覚障害があるこの准教授は、勤務する短大から「授業中に飲食していた学生を注意できなかったこと」などを理由に、事務職への転換命令を受けましたが、准教授は、これが「視覚障害者への不当な差別」だとして、命令撤回などを求める訴えを起こしていました。
1審、2審と「命令に従う義務はない」とする判決を言い渡し、短大側が上告していましたが、昨年11月27日、最高裁が上告を棄却したことで、授業の担当から外した命令は無効とする判決が確定しました。
この裁判では、使用者の配置転換の命令が無効となりましたが、使用者が労働者に対し配転や転勤を命じる根拠は労働契約にあり、その労働契約に基づいて、使用者に命令する権利が生じ、労働者はこれに従う義務が生じます。それを多くの会社では、就業規則に配転や転勤命令権を記載することで、合理性と周知を要件として、労使の合意がなくても労働契約の内容としています。
このように、労働契約に基づいて使用者には配転や転勤の命令権は認められていますが、この行使が権利濫用になる場合、無効となり、労働者が従う義務はなくなります。今回の裁判では、「障害者への不当差別」という理由で無効となりました。ほかの裁判例でも労働者の不利益の程度を個別具体的に考察して、「通常甘受すべき程度」を著しく超えるという理由で無効となった裁判例がいくつかあり、使用者は十分に注意が必要です。実務で上手に配転や転勤を実現するためには、命令よりも労働者の同意を得て行うことが望ましく、同意が得られない場合は命令ということになりますが、その同意を得るための努力が命令の権利濫用性を低下させ、また紛争発生を防止すると思われます。