労務管理事例集

労基法その他労働法

時間外手当を固定にしたいと考えています。注意すべき点を教えてください。

 時間外手当を固定(定額)にすること自体は問題がありませんが、例えば30時間分の固定時間外手当を支払うとした場合に、時間外労働時間の実績が40時間であった場合は、10時間分の時間外労働割増賃金を支払わなければなりません。逆に、実績が下回っている場合でも30時間分の固定時間外手当を支払うことになります。

 時間外手当を固定にすること(以下、定額残業代制と呼びます。)が有効であるかどうかは、現時点での裁判例によると、「定額残業代」が、それ以外の賃金と明確に区分されていること(明確区分性)と 時間外労働等の対価として支払われていること(対価要件)が要件とされているといわれています。また、公序良俗違反に該当する定額残業(労働基準法を逸脱したような残業時間の設定など)についても無効と判断される可能性があります。

(しかしながら今後の裁判所の判断も注視する必要もあります。)

 実務面においては、実情に応じた残業時間を設定し、労働条件通知書、就業規則等において明確区分性、対価要件を満たす定めをしておくことが必要であり、給与明細においても支給対象の時間外労働の時間数と手当の金額を記載した方が望ましいと考えられます。

更新日 2021年10月20日

(医療法人社団康心会事件 最高裁二小 平29.7.7判決)

「労働基準法37条・・・は、労働基準法37条等に定められた方法により算出された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、労働者に支払われる基本給や諸手当・・・にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない」とした上で、労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かの判断基準として、「割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ、同条の上記趣旨によれば、割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては、上記の検討の前提として、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり・・・上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算出した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべき」

(日本ケミカル事件 最高裁一小 平30.7.19判決)

 本件雇用契約に係る契約書および採用条件確認書ならびにY社の賃金規程において、業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載されており、Y社とX以外の各従業員との間で作成された確認書にも、業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載されていたのであるから、Y社の賃金体系においては、業務手当が時間外労働に対する対価として支払われるものと位置づけられていたといえる。さらに、Xに支払われた業務手当は、1か月あたりの平均所定労働時間(157.3時間)を基に算定すると、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当するものであり、Xの実際の時間外労働等の状況と大きく乖離するものではない。これらによれば、Xに支払われた業務手当は、本件雇用契約において、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたと認められるから、上記業務手当の支払いをもって、Xの時間外労働等に対する賃金の支払いとみることができる。

更新日:2006年09月09日
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