労務管理事例集

その他労務相談

退職社員がライバル会社へ就職したり、同業を開業したりすることを防ぐ方法はありますか。

 退職後に特定の職業に就職したり開業したりすることを禁じる(「競業避止義務」といいます。)ことは、憲法上認められている労働者の職業選択の自由を制限することや、経済的弱者である労働者の生計の道を奪いその生存を脅かすおそれがあることから、①競業避止に関する雇用契約上の特約の存在があるうえで、②競業避止の内容が必要最小限であり合理的であることが求められます。

①競業避止に関する雇用契約上の特約は、就業規則あるいは退職(入社時)時の個別の合意文書など(例えば「競業避止に関する誓約書」)で明確にする必要があります。

②競業避止の内容が必要最小限であり合理的であるか否かについては、次の点を総合的にみて判断されます。

・労働者の地位

・使用者の利益

・労働者の不利益

・制限の対象職種

・制限の期間

・制限の場所

・代償の存在

・社会的利害(独占集中、一般消費者の利害)

 なお、在職中は、雇用契約に付随する義務として信義則上競業避止義務を負うと考えられています。(取締役については会社法356条第1項で競業が制限されています。)

 また、不正競争防止法第2条第1項7号に該当する行為、つまり営業秘密保持義務のある従業員が不正の利益を得る目的や会社に損害を与える目的で営業秘密を使用する場合等は、退職後もその従業員に対して差止請求(同法第3条)や損害賠償請求(同法第4条)ができます。

■会社法356条第1項

(競業及び利益相反取引の制限)

第三百五十六条  取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一  取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

二  取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

三  株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

 

■不正競争防止法第2条第1項7号

(定義)

第二条  この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

七  営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の競業その他の不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

 

■不正競争防止法第3条

(差止請求権)

第三条  不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

 

■不正競争防止法第4条

(損害賠償)

第四条  故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条*の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。

 

■不正競争防止法第15条

(消滅時効)

第十五条  第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争のうち、営業秘密を使用する行為に対する第三条第一項の規定による侵害の停止又は予防を請求する権利は、その行為を行う者がその行為を継続する場合において、その行為により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある保有者がその事実及びその行為を行う者を知った時から三年間行わないときは、時効によって消滅する。その行為の開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

更新日:2013年08月09日
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