労務管理事例集

労基法その他労働法

建設業です。当社では、毎朝、従業員を会社に集合させ、社有車に乗り合わせをして工事現場へ向っています。工事現場への移動時間に対して賃金の支払い義務はありますか。

 工事現場への移動時間に対し、賃金支払い義務があるかどうかは、個別のケースを具体的に見る必要があり、一概に賃金の支払い義務があるかないか言い切ることはできません。この賃金支払い義務があるかどうかは、移動時間が労働時間に当たるかどうかが焦点となります。では、労働時間とは何かというと、労働基準法では労働時間の定義がされておらず、最高裁判所判例において、「労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、(中略)労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない」と示されています。つまり、移動時間が使用者の指揮命令下に置かれているかどうかで判断する必要があります。 

 工事現場への移動時間が労働時間に当たるかどうかについて判断した裁判例としては、総設事件(東京地裁 平成20年2月22日)と阿由葉工務店事件(東京地裁 平成14年11月15日)が参考になります。

 総設事件では、従業員は原則的に一旦会社に集合し、工事現場へ出発する前に倉庫から資材を車両に積み込み、当日の入る現場や作業内容についても現場へ出発前に指示を待つ状態であり、その後の車両による移動時間も打ち合わせなりしながら現場へ赴いていたことから、移動時間は自由時間とは言えず、移動時間も含めて会社に出社した時間から労働時間と判断されました。

 一方、阿由葉工務店事件では、工事現場への直行直帰が認められており、一旦会社に集合し、乗り合わせて現場へ赴いていたのは会社の命令ではなく、また、車両の運転者や集合時刻等も従業員の間で任意に定めていたことから、会社と工事現場との往復は、通勤としての性格を多分に有するものとして、労働時間、すなわち、会社の指揮命令下に置かれている時間に当たらないと判断されました。

 質問のケースでは、例えば、工事現場への直行直帰が認められず、会社の命令で会社に集合し、工事現場へ赴く前に作業準備等させている場合は、移動時間は労働時間に当たるものと考えられますので、注意が必要です。

2019年3月1日 社会保険労務士 杉山 定広

更新日:2019年03月01日
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