労務管理事例集

労基法その他労働法

当社では新入社員との間で雇用契約書を締結していますが、労働基準法に定める労働条件通知書は作成していません。問題はないのでしょうか。

 雇用契約書とは、民法第623条に定められた使用者と労働者との間に成立した雇用契約の内容を記した書面になります。つまり労働の提供と報酬支払について合意がなされたことを証明する書面になります。雇用契約は合意されれば、口頭でも成立するものであり、雇用契約書の作成は法律上義務付けられておりません。

 労働条件通知書は、労働基準法第15条第1項にて定められており、労働契約の締結の際に、労働者に対して賃金や労働時間その他の労働条件を明示することを使用者に義務付けています。明示が義務づけられている絶対的明示事項と労働条件について定めをした場合に明示が義務付けられる相対的明示事項があり、絶対的明示事項のうち、昇給に関する事項以外は必ず書面にて明示しなければいけません。この書面については決まった書式があるわけではなく、自由でよいとされています。

 よって絶対的明示事項が記載された雇用契約書を書面にて交付しているのであれば、労働基準法15条第1項で定められた労働条件の明示が適法にされていると判断することができます。

 両者は文書の内容が使用者と労働者間の合意を表すか否かという点で大きく違いますが、 賃金などの労働条件は重要な契約内容のため、トラブル防止のためにも労使の合意を書面にて確認することがよいでしょう。

2020年9月14日 特定社会保険労務士 杉山 定広

(労働条件の明示)

【労働基準法第十五条第一項】

 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。 

【労働基準法施行規則 第五条】

 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第一号の二に掲げる事項については期間の定めのある労働契約であって当該労働契約の期間の満了後に当該労働契約を更新する場合があるものの締結の場合に限り、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。 

一 労働契約の期間に関する事項

一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項

一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 

二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項 

三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 

四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項 

六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項

七 安全及び衛生に関する事項 

八 職業訓練に関する事項 

九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項 

十 表彰及び制裁に関する事項 

十一 休職に関する事項 

○2 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。 

○3 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。 

【(平成一一年一月二九日) (基発第四五号)】 

第二 労働条件の明示(法第一五条第一項関係) 

一 趣旨

 労働移動の増大、就業形態の多様化等に伴い、労働条件が不明確なことによる紛争が増大するおそれがあることから、このような紛争を未然に防止するため、書面の交付により明示すべき労働条件を追加したものであること。 

二 労働契約の締結の際に明示すべき事項 

 使用者が労働契約の締結の際に明示すべき事項として、労働契約の期間に関する事項及び所定労働時間を超える労働の有無を追加したものであること。 

三 書面の交付により明示すべき事項 

 使用者が労働契約の締結の際に書面により明示すべき事項として、次の事項を追加したものであること。 

(一) 労働契約の期間に関する事項 

 期間の定めのある労働契約の場合はその期間、期間がない労働契約の場合はその旨を 明示しなければならないこと。 

(二) 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 

 雇入れ直後の就業の場所及び従事すべき業務を明示すれば足りるものであるが、将来 の就業場所や従事させる業務を併せ網羅的に明示することは差し支えないこと。 

(三) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇 並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項 当該労働者に適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示しなければならない こと。なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、所定労働時間を超える労働の有無以外の事項については、勤務の種類ごとの始業及び終業の時刻、休日等に関する考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること。 

(四) 退職に関する事項 

 退職の事由及び手続、解雇の事由等を明示しなければならないこと。なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること。 

四 書面明示の方法 

 上記三の書面の様式は自由であること。 なお、上記に掲げた事項については、当該労働者に適用する部分を明確にして就業規 則を労働契約の締結の際に交付することとしても差し支えないこと。 

(雇用) 

【民法第623条】 

雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに 対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

更新日:2020年09月14日
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