その他労務相談
賃金の過払いが発覚した場合、返還を求めることが出来るでしょうか。また、遡って返還を求めることが可能でしょうか。
賃金の過払いについては会社が従業員に対して「不当利得返還請求」(支払時から10年、ただし過払いを知った時から5年間行使しないときは5年)をすることができます。また、本人が、過払いを受けた事実を知らなかったか、過払いの事実を知っていたかによって、返還を請求できる範囲や、消滅時効の期間(遡って請求できる期間)に違いがあります。
過払い額を賃金から控除するには、労使協定のほか就業規則の定めや個別の同意が必要と考えられています。ただし、賃金に過払いがあった時期と清算する時期が合理的に近く、その金額が従業員の生活を脅かす恐れが無い場合、賃金控除の協定書の有無にかかわらず、賃金からの控除が有効と考えられています。
1.過払いを受けた事実を知らなかった場合
会社は従業員に対して、過払い分を返還させることができます。(民法703条)これは、本来得られるべきでない利益を得た者はその利益を返還しなければならないという公平の原理に基づく制度によるもので、会社に過失がある場合や、知らなかったことについて従業員に過失がある場合も、返還請求が可能です。ただし、不当利得返還請求できる範囲は「その利益の存する限度」に限られるため、過払いを受けた従業員の手元に残っている金額が返還請求の対象となります。
2.過払いの事実を知っていた場合
会社は従業員に対して、過払い分に利息を付けて返還させることができます。(民法704条前段)利息は年3%とされており、各月の過払い額ごとに、それぞれの支給時からの利息を計算する必要があります。(民法404条2項)
ただし、従業員が過払いの事実を知っていた場合の不法行為に基づく「損害賠償請求権」の消滅時効の期間は、損害及び加害者を知ったときから3年です(民法724条)。
2022年12月26日
【労働基準法】
(賃金の支払)
第24条第1項
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてする相殺は、過払のあつた時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、かつ、あらかじめ労働者に予告されるとかその額が多額にわたらない等労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものであるときは、労働基準法二四条一項の規定に違反しない。(最高裁判例昭和44年12月18日福島教祖事件)
【民法】
(不当利得の返還義務)
第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
(悪意の受益者の返還義務等)
第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(法定利率)
第404条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年3パーセントとする。
(債権等の消滅時効)
第166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
※2020年4月1日以降、時効は2つの基準によって判断されるようになり、いずれか早い方で時効期間が満了します。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
① 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
② 不法行為の時から20年間行使しないとき。