労務管理事例集

安全衛生

当社では各工程で有機溶剤を使用していますが、いずれも使用頻度は「稀」程度です。このような場合でも、有機溶剤健康診断(特殊健康診断)の対象になるのでしょうか。判断方法を教えてください

 まず対象となる業務かどうかを確認し、対象業務に当たる場合は、使用頻度や時間が少なくても、「定期的に反復される作業」であれば有機溶剤健康診断の対象となります。

 有機溶剤健康診断の対象は、有機溶剤中毒予防規則(有機則)第29条第2項により、同条第1項の業務に常時従事する労働者です。第1項の業務とは、屋内作業場等(第三種有機溶剤等にあってはタンク等の内部に限ります。)における有機溶剤業務のうち、第3条第1項の適用除外を受けたもの以外の業務をいいます。ここでいう「屋内作業場等」には、屋内作業場のほか、タンク、ピット、船舶、車両、ダクトの内部など通風が不十分な場所が含まれます(有機則第1条第2項、第2条第1項第1号)。屋外での作業のつもりでも該当する場合がありますのでご注意ください。したがって、通風が十分な屋外で行う有機溶剤業務や、第三種有機溶剤等をタンク等の内部以外で取り扱う業務は健康診断の対象外ですが、リスクアセスメントの実施など他の義務がなくなるわけではありません。まず作業場所と有機溶剤の種別で対象業務を切り分けてください。

 対象業務に該当する場合、次に「常時従事する労働者」の範囲が問題になります。厚生労働省は、「継続して当該業務に従事する労働者」のほか、「一定期間ごとに継続的に行われる業務であってもそれが定期的に反復される場合」も該当するとの考え方を示しています(特定化学物質障害予防規則第39条に関するパブリックコメント回答(平成28年11月30日公表)。有機溶剤健康診断についても同様に解されます。)。したがって、従事する時間や頻度が少なくても、定期的に反復される作業であれば対象となります。ただし、常時性は頻度だけでなく作業内容や取扱量等も踏まえて個別に判断されるため、迷う場合は産業医や所轄労働基準監督署にご確認ください。

 実施時期は、雇入れの際、当該業務への配置替えの際、及びその後6か月以内ごとに1回です。ただし、①当該業務を行う場所の作業環境測定の結果が直近の評価を含めて連続3回第一管理区分であること、②直近の健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除きます。)していないこと、のいずれにも該当し、かつ、直近の連続した3回の健康診断で新たな異常所見が認められなかった労働者は、定期の健康診断を1年以内ごとに1回とすることができます(有機則第29条第6項)。使用頻度が少ない事業場では該当する可能性がありますが、要件を確認せずに事業者の判断だけで延長することはできません。

 健康診断(定期のものに限ります。)を行ったときは、事業場の規模にかかわらず、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して所轄労働基準監督署長に報告します(有機則第30条の3)。一般健康診断の「常時50人以上」の基準とは異なりますのでご注意ください。個人票は5年間保存します(同第30条)。

 なお、消費量が少ない場合の特例もあります。作業時間1時間(タンク等の内部では1日)に消費する有機溶剤等の量が許容消費量を超えないときは、設備、作業主任者の選任、掲示等の規定が適用されません(有機則第2条第1項)。ただし、健康診断と作業環境測定は除外されず、これらを含めて適用を外すには所轄労働基準監督署長の認定が必要です(同第3条第1項、第4条)。

 使用している製品が有機溶剤に該当するかは、各製品のSDS(安全データシート)で確認します。「15.適用法令」欄に有機則又は特定化学物質障害予防規則(特化則)の記載があるかを確認し、「3.組成及び成分情報」欄で含有率を確認します。有機溶剤含有物とは、有機溶剤を混合物の重量の5パーセントを超えて含有するものをいいます(有機則第1条第1項第2号)。クロロホルム等の特別有機溶剤は特化則の健康診断の対象となるため、「有機則」の記載の有無だけで判断すると取りこぼしが生じます。  容器の表示や商品名のみでは判断できないこともあり(同じ「クリーナー」でも成分が異なります。)、まれにSDSに記載漏れや誤りもありますので、迷う場合は製造元又は所轄労働基準監督署にお問い合わせください。

 あわせて、有機溶剤業務を行う屋内作業場については作業環境測定(有機則第28条第2項。6か月以内ごとに1回)、屋内作業場等における第一種・第二種有機溶剤等に係る有機溶剤業務については発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の設置(同第5条。タンク等の内部における第三種有機溶剤等は同第6条)、屋内作業場等における有機溶剤業務については有機溶剤作業主任者の選任(同第19条)の義務があります。さらに、有機溶剤はリスクアセスメント対象物であるため、使用頻度が少なくても、事業場ごとの化学物質管理者の選任(労働安全衛生規則第12条の5)とリスクアセスメントの実施が必要です。

2026年8月17日

有機溶剤中毒予防規則

(健康診断)

第二十九条 令第二十二条第一項第六号の厚生労働省令で定める業務は、屋内作業場等(第三種有機溶剤等にあつては、タンク等の内部に限る。)における有機溶剤業務のうち、第三条第一項の場合における同項の業務以外の業務とする。

2 事業者は、前項の業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

~以下略~

参考:パブリックコメント

「労働安全衛生規則及び特定化学物質障害予防規則の一部を改正する省令案に係る意見募集について」に対して寄せられた御意見等について(平成28年11月30日)

番号8 要旨

常時従事する労働者とは、「継続して当該業務に従事する労働者」のほか、「一定期間ごとに継続的に行われる業務であってもそれが定期的に反復される場合には該当する。」との理解、即ち、当該業務に従事する時間や頻度が少なくても、定期的(例えば、年1回、月1回、週1回及び日1回の何れの場合も)に反復される作業であればこれに該当すると解釈し、特殊健康診断の対象者とすべきか。

厚生労働省の考え方

常時従事する労働者とは、「継続して当該業務に従事する労働者」のほか、「一定期間ごとに継続的に行われる業務であってもそれが定期的に反復される場合」も該当します。

ただし、作業の常時性については、作業頻度のみならず、個々の作業内容や取扱量等を踏まえて個別に判断する必要があります。

有機則第29条第6項=作業環境測定の結果が連続3回第一管理区分であること等の要件を満たす労働者は、定期の健康診断を1年以内ごとに1回とすることができる。

有機則第30条・第30条の3=個人票を5年間保存し、定期の健康診断の結果は電子情報処理組織を使用して所轄労働基準監督署長に報告する(規模要件はない)。

有機則第2条第1項・第3条第1項=消費量が許容消費量を超えない場合の適用除外。第2条は認定不要だが健康診断と作業環境測定は除外されず、第3条は所轄労働基準監督署長の認定により健康診断等も除外される。

更新日:2026年09月04日
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